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書籍紹介

第2章 トクする家づくりは住む人にやさしい環境づくりから

07 健康な暮らしができるかどうかは家の環境で決まる

私たちの会社の顧問をしていただいている慶応義塾大学理工学部の伊香賀俊治教授は、建築環境工学が専門で『健康維持増進住宅のすすめ』(大成出版社)などの本を書いています。その伊香賀教授たちのグループが、住宅の断熱性能と住む人の健康状態の関係を調べて、「健康維持がもたらす間接的便益を考慮した住宅断熱の投資評価」という調査報告を発表しました。断熱性能の低い家から高い家へ引っ越した人、およそ1万人の健康状態を追跡調査したものです。
その結果は、表の通り。いろいろな病気に関して、驚くべき数値が並んでいます。直接の関係が連想できるアレルギー性鼻炎(花粉症)やアトピー性皮膚炎、気管支ぜん息だけでなく、糖尿病の人まで症状が改善されたというのです。
この調査でいう「断熱性能の高い家」とは、平成11年の省エネ基準にもとづいていますから、現在よりかなり緩いものです。それでも、住む人の健康状態を大幅に改善してくれることがわかります。省エネ性能の高い家は、光熱費などのランニングコストを減らすだけでなく、医療費の節約効果ももたらすことがわかります。これだけ顕著な結果が出ているのですから、断熱性能を高めるためのコストに厚生労働省(厚労省)が助成金を出してもいいのではないかとすら思えるくらいです。

イギリスでは法律で住宅の最低室温が定められている

家の資産価値が高いイギリスには、住宅法という法律があります。驚くのは、冬場の室温が18℃以下に下がる家を建ててはいけない、と決められていることです。理由は、人間の健康に害が出るから。そんな家を建てたら、回収・閉鎖・解体命令が下るか、断熱工事をやり直しです。
イギリスの首都ロンドンは北緯51度で、札幌より北に位置します。年間平均気温は11℃ですから、室温15℃程度だとしても冬の外気に比べればかなり暖かいはずです。それでも住宅先進国であるイギリスの考え方としては、冬に橋の下で野宿するのが危険なのと同じように、室温が18℃以下に下がるような家で国民を生活させてはいけない、ということなのです。
日本の厚労省に当たるイギリスの保健省は、当初20℃以下に設定しようとしていたそうです。ところが住宅産業からの大反対を受けて、現在の18℃に落ち着いたといわれます。18℃でさえ、妥協によって設定された基準というわけです。

日英の住環境に対する意識は、なぜこうも違うのか?

一方、日本の住宅はどうでしょうか?暖房が効いている部屋ならそれくらいあるでしょうが、それ以外の部屋の温度は外より多少はマシ、という家も少なくないはず。それでも厚労省には住宅の室温改善に向けて何かアクションを起こすというような兆候は見られません。
こうした住宅環境に対する日英の意識の差がどこにあるかというと、住宅法の起源にさかのぼります。もともとイギリスの住宅法は、19世紀の産業革命のあと、ロンドンの町中に煤煙を出す工場がたくさん建設され、ウサギ小屋のような狭いスペースに何世帯もがギュウギュウ詰めになって暮らすという住環境の中で、ペストが流行るなど健康被害が問題視されたときに定められた法律です。人間が暮らす住宅の環境かくあるべし、という規定がイギリス住宅法のポリシーなので、暮らす人の健康や福祉を高めていくことを意識した内容になっています。

ドイツの制度を後追いする日本の省エネ政策

省エネにおいて世界最先端国の一つであるドイツは、1970年代から住宅建築時における断熱基準の義務化を始めました。ひとたび義務化のラインを引くと、その基準より省エネの家が建ちはじめ、エネルギー消費量の全体の平均値が下がります。そこで数年後、より厳しい次の義務化基準を出す。また平均値が下がり、という基準の厳格化を、ドイツは5段階くらい繰り返しています。家のどこでも18℃以上という基準は、イギリスと同じです。
住宅業界では、断熱に対する取り組みはドイツに追随していくのではないかと、といわれています。しかし、考え方としては、住む人の健康と福祉を優先するイギリスを見習うべきではないでしょうか。日本では、部屋も廊下も脱衣所も同じ温度の家など現実的ではないと感じる読者も多いと思いますが、イギリスやドイツではすでに実現しています。

北海道でヒートショックが少ないワケ

また、日本でも厳しく長い冬をすごす北海道では、イギリスやドイツ的な高断熱の住宅づくりの考え方が根付いています。
先ほどご紹介した、慶応義塾大学理工学部の伊香賀俊治教授の研究により、冬場の室内で脳血管疾患や心疾患などで死亡する確率は、北海道ではほかの都府県と比べて明らかに低いことが判明しています。厳しい冬を乗り越えるため、断熱性を高め、家全体でしっかりと温度管理がされている住宅が多いため、ヒートショックが起こりにくいことが、その原因の一つと考えられます。
家族の健康を守るためにも、断熱と室内の温度管理を厳密にするのは、当然のことなのです。従来の日本人の感覚こそ、変えていくべきだと考えます。

※当コンテンツに記載されている内容については、現在は終了している制度や古いニュースも含まれております。あくまでご参考いただくものでございますので、実際に住宅購入・ライフプランを検討される場合は、現在の情報をご自身で確認の上ご判断ください。