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企業が儲けているのに労働者に還元されないって本当?

よく、「大企業は儲け過ぎている。もっと労働者に還元をしたり、設備投資をするべきだ!」といったような記事を見かけることがあります。それはあくまでも先入観ではないかと思う人もいるでしょうが、気になる記事があります。

大企業はもうけ過ぎなの?

<労働分配率66.1% 低水準に 昨年度、内部留保は最高>
(2016年9月3日付日本経済新聞)
『企業の利益のうち、労働者の取り分を示す「労働分配率」が低水準になっている。財務省の法人企業統計から算出した2015年度の労働分配率は66.1%で、リーマンショック前に企業の利益が膨らんだ07年度(65.8%)以来の低さとなった。一方で企業の利益の蓄積である内部留保は4年連続で過去最高を更新した。』

労働者の取り分である「労働分配率」が低水準となり、その分を社内に利益を貯め込んでいるという記事です。この結果から、『石原伸晃経済財政・再生相は、「経済を成長軌道に乗せるには内部留保を設備投資や賃金増加につなげることが重要だが、残念ながらそういう状態に十分にはなっていない」と現状に不満を述べた。』とのことです。
企業が貯めるだけの利益があるのであれば、その分をもっと設備投資や労働者の給与アップにつなげてくれないと、社会にお金が回らないので景気が良くならないのでは、と言いたいのでしょう。

この言い分は果たして本当にそうなのでしょうか?

労働分配率って何?

まずは労働分配率の計算式を知っておきましょう。

労働分配率=人件費÷付加価値額

で求めることができます。

「人件費」は従業員への給与、福利厚生など、労働者へ支払う総額のことです。「付加価値額」とは、その企業が事業で稼いだ額です。付加価値額は、計算上では人件費、減価償却費、賃貸料、営業利益などを合計したもので、売り上げから原価を引いた「売上総利益」とほぼ同じと考えても良いでしょう。労働分配率は「企業が稼いだ額からどれだけ人件費に回っているか」を示す指数です。

昔の日本では労働分配率は高く、70%以上もありました。近年では2008年が最も高く72%で、これはリーマンショックの翌年です。それが2015年になると66%まで下がってしまいました。
労働分配率が低下することは、企業の稼ぎが従業員に回っていないということです。では、その低下した分はどこにいったのでしょうか?それは、企業が利益を積み上げてしまっていたということですね。実際、2015年度の日本の内部留保の合計は約380兆円で、前年度と比べると6%も増えているのです。

これでは企業批判が起きてしまいますよね。
「企業は社内に貯めこむばかりではなく、もっと従業員の給与を増やしたり、設備投資をして、もっとお金を世の中にまわすべきだ」と。
「法人税を下げる必要はない」、「もっと賃金アップをしろ」といった話になっても当然ですね。

本当に企業は貯めこんでいるのか?

実態は、「企業の稼ぎが増えている」

しかし、実際のところ人件費も設備投資も増えているといったデータもあります。

<実質賃金6カ月連続プラス7月、2.0%増>
(2016年9月5日付日本経済新聞)
『厚生労働省が5日発表した7月の毎月勤労統計調査によると、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月比2.0%増加した。6カ月連続で前年を上回った。』

物価変動を考慮しない名目賃金でも1.4%増です。これは、ボーナスの増加が要因となっているようですが6ヶ月連続の増加です。年間でも給与総額は2年連続プラスとなっています。

この傾向は賃金だけでなく設備投資もです。

<設備投資3.1%増4~6月法人企業統計>
(2016年9月1日付日本経済新聞)
『全産業の設備投資額は前年同期比3.1%増の9兆3145億円だった。プラスは13四半期連続。このうち、製造業は11.1%増、非製造業は1.3%減だった。』

この増加傾向は特に自動車産業や化学産業で目立ち、生産設備や研究開発への投資が増加しているようです。「プラスは13四半期連続」であることから、設備投資は3年以上増え続けていることになります。

これらのことから「企業は貯めこんでばかりいる」わけではないことが分かります。賃金総額、設備投資、企業の内部留保も増え、そもそも企業の稼ぎが増えているということですよね。企業の内部留保が増えたのは、賃金や設備投資以上に企業の稼ぎが増えているからでしょう。

労働分配率の低下は企業収益の減少が要因

ではなぜ、賃金が上がっているのに労働分配率が下がったのでしょうか?

労働分配率は「人件費÷付加価値額」でした。

分母である付加価値額が人件費よりも増えれば、労働分配率は下がることになります。

近年で、労働分配率が最も低かったのは2007年の65%と、リーマンショックの前年で企業が多く稼いでいた時期です。労働分配率が最も高いのが2008年の72%で、リーマンショックの翌年です。つまり、企業収益が減ったことで付加価値額も低下し労働分配率が下がったということでしょう。計算式を考えてみれば、労働分配率が下がったことで、企業が稼ぎを貯めこんでいると判断できないことが分かります。

数字のマジックには要注意!

「人件費」と「付加価値額」の景気の影響の受け方は異なる

正しく現状を把握するためには、数字のマジックには注意が必要です。特に「○○率」は要注意です。労働分配率だけを見ていたのでは、人件費が下がったのか、付加価値が上がったのかが分かりません。労働分配率のように「率」を見るときには、分母と分子がどう変化したのかを確認することが重要です。

この人件費と付加価値額とでは、景気の影響の受け方が違います。景気が悪化することでボーナスが減ることはありますが、基本給が減るということはありません。人件費はそもそも景気などによって急激に上がったり下がったりすることはないのです。一方で企業の収益は景気に大きく影響します。特にリーマンショックのような世界的に影響を与えることが起きてしまうと、世界を相手にしている日本企業は1年で企業収益は大きく変わります。

今回のことについて考えてみると、人件費総額は緩やかではあるが上がっていて、それ以上に付加価値額が上がっていた、というだけのことです。これは「率」だけではなく「額」も見ないと現状は把握できないという良い例です。

賃金が上がるには順序がある

石原大臣の発言を見ると不満のようですが、物事には順序があります。まずは企業がしっかりと稼ぎ設備投資をします。設備投資をしたことで生産性が向上し、稼ぎが安定してくれば賃金も上がるということです。企業の収益が上がり続けることで、そのうち賃金も上がってきます。

今の日本では年々生産年齢人口は減り続けています。この現状の中で賃金総額が伸び続けているのはすごいことではないでしょうか。働く人が減っているのに、賃金総額は増えています。生産年齢人口が減り続けている中、一人当たりの賃金が増えているのは、それだけ労働生産性も向上しているということでしょう。

生産年齢人口が減ることで将来を不安視している人もいるでしょう。今の日本では生産年齢人口が減っても、労働生産性を向上させることで企業が稼ぐことができ、労働者も賃金が増える環境となっています。しかし、ニュースや雑誌などの情報によって先入観を持ち、単純に物事を判断しがちです。情報を正しく認識することが大切です。

私たちは正しく現状を確認しながら、目の前にある仕事を一生懸命取り組み、労働生産性を向上させるのみです。毎日の仕事を一生懸命取り組むことは大変ですが、今より明日はもっと良くなると信じて与えられた仕事を頑張りましょう。

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