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中古住宅を安心して買うための住宅診断

近年、全国で空き家が問題になっています。空き家は日本の住宅全体の1割強もあり、総数で約820万戸にも上ります。空き家になると資産が有効に活用されていないだけでなく、劣化が進んで倒壊する恐れや防犯上の問題、街の景観が損なわれるなど、地域の人々に様々な悪影響を及ぼします。

中古住宅を買うには不安がある?

では空き家を有効利用するためにリフォームしてリユースされるようにするには、どのような仕組みが必要なのでしょうか。

国が目指す住宅市場の姿とは、「これからは新築中心の住宅市場から、リフォームにより住宅ストックの品質・性能を高め、中古住宅流通により循環利用されるストック型の住宅市場に転換する」(「国土交通省「中古住宅・リフォームトータルプランの概要」より)というものです。

しかし現実に日本で家を買う人の希望は新築住宅が中心で、予算の都合で仕方なく中古住宅にする人がいるという程度です。中古住宅の取引量が全体の1割強にとどまっているその理由は何でしょうか?

それは、中古住宅にまつわる様々な不安です。中古住宅はもちろん新築に比べて安く、場所も通勤通学に適した良い所の物件も多数ありますが、耐震性や耐久性、修繕費などを考えると二の足を踏んでしまうのです。30歳で築20年の家を買った場合、60歳で築50年になります。80歳まで生きるとすると築50年の家があと20年持つかどうかという不安があります。また安いと思って買っても修繕費が相当かかるかもしれないし、悪い箇所も出てくるのが当たり前、老後になってからでは建て替えは資金的に無理があるといった心配もあります。
このような心配や不安から、やはり家は新築で建てないと、と言った考えが昔から続いているのだと思われます。そして家としての価値を失った空き家がそのままになってきたのです。

国の中古住宅への取り組み

そのような不安を払拭するために、国も住宅の品質、性能を明確にして中古住宅の流通を促進しようと対策を立てて取り組んでいます。

<中古住宅の診断を義務化販売時、不安除き取引促す 政府・与党が法改正へ>
『政府・与党は買い手がつかず売れ残る中古住宅の市場活性化に乗り出す。専門家が劣化状況を調べる住宅診断を徹底し、仲介業者に販売時の説明を義務付ける。購入後に欠陥が判明するケースを防ぐ。一方で販売情報も適切に開示し、安心して売り買いできる環境を整える。少子高齢化で空き家が増えており、資産価値の高い中古住宅の流通を促す。』(2015年4月27日付日本経済新聞)

これは中古住宅を安心して取得するために、販売時に住宅診断(インスペクション)を義務付けるというものです。住宅の耐久性や劣化状況を「インスペクター」と呼ばれる住宅診断の専門家が、第三者的な視点で点検する仕組みで、欧米ではかなり普及していますが、やっと日本でも実施の兆しが見えてきたというところです。

ではインスペクションが義務化されるとどうなるのでしょう?
まず買主側には大きなメリットになります。購入前に家の状況について専門家の意見が聞けるのは、重要な判断材料になります。具体的な住宅の劣化状況、欠陥の有無、改修すべき箇所があるか、またどんな工事が必要かや、その際の費用などを含めた全体的な建物の資産価値が分かるようになります。売主が提示するこれまでの情報は書面上のもので、住宅の「質」に関しては自分の目で見るくらいしか方法がありませんでした。インスペクションを行った専門家の目を通して判断された資産価値を持つ中古住宅なら、納得の上安心して購入することができるようになるでしょう。今までのように中古住宅を築年数だけでランク付けするのではなく、状態の良し悪しで購入するかの判断をすることができるのは画期的なことです。また売主側にとっても、契約した後の物件の瑕疵についてのトラブルに巻き込まれるのが少なくなるのなら、インスペクションはメリットになるといえます。

住宅診断で販売価格が下がる?

インスペクションの有効性は徐々に認められつつあるものの、現実には普及していないのは、仲介業者や売主にインスペクションは不利になるだけだという考えが根強くあるからです。

「インスペクションを行うと家にケチを付けられて値引きを要求される」
「時間と費用をかけて安く売るのはデメリットだけだ」
「そんなことをしているうちに売る機会を逃してしまう」
などと思う売主が多いからです。

中古住宅を仲介する宅建業者は、買主に対して「重要事項説明義務」があります。権利関係や登記の情報、電気・ガス・水道などのライフラインなど多くの内容が含まれていますが、調査は現地視察や役所、法務局で行うだけで、「現状を見て買ってください」という売主がほとんどです。
しかし住宅診断で価値が下がるような物件はそもそも売値に問題があるのであって、買主が損を被ることになってしまいます。住宅診断が義務化されて公正な中古住宅販売には住宅診断が必須であるという考えが定着し、一般化されれば売主の姿勢も変わらざるを得なくなっていくでしょう。

インスペクション普及への課題とは

インスペクションで中古住宅の実質的な価値が分かるようになれば、売主は物件の適正価格を示すことができ、買主側は安心して中古住宅の購入に踏み切れます。適正価格で販売される中古住宅が増えれば、新築にこだわらずに中古住宅も視野に入れて家を探す人も増えていくでしょう。住宅診断の義務化によって国の狙い通りに空き家の減少にも弾みがついていくかもしれません。

しかし本格的に住宅診断が普及するには、まだまだ時間がかかりそうです。それは、まずルール作りに問題があるからです。売主と買主のどちらがどんなタイミングでインスペクションを行うのかを決めなければなりません。そして費用の負担は誰がするのか、などといった具体的な取り決めのルールが決まっていなければなりません。

例えば、売る前に売主がインスペクションを行うと、買主の安心がどこまで保証されるかは不明で、効果は限定的になる可能性が高くなります。基本的には、買主が第三者視点のインスペクターに依頼してインスペクションを行うほうが安心できる結果につながります。

中古住宅の住宅診断は義務化には向かっていますが、いつ実現するのかはまだ不透明です。まずインスペクションの内容の基準作りが重要で、ガイドラインが策定されています。また資格を持つインスペクターを養成する機関も必要で、インスペクターの数も確保されないと全国規模の実施ができません。
そして国が意図している空き家の問題や中古住宅の流通にどのくらい寄与するのかは想定できていません。時間はかかりますが、先ずは環境を整えていくことが重要です。

中古住宅は、劣化が進むと流通に乗らない物件となってしまいます。そのまま空き家で放置しておくと、状況によって固定資産税が6分の1になる優遇制度はなくなることが決定しています。空き家を持つ人にとっては頭の痛い問題かもしれませんが、これによって空き家の放置は減り、倒壊や防犯上の問題は減少していくことでしょう。
またこれからは新築で家を建てても、住宅の劣化状況がインスペクションで明瞭になると分かれば、売る時の価値をできるだけ落とさないために住宅のメンテナンスに力を入れることになり、結果的に長持ちする質の良い住宅が増えることになります。
住宅診断が普及すれば、中古住宅が空き家で放置されずに流通し、中古でも安心して買える環境が整って、日本の住宅の質も向上していくことでしょう。

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