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年金法案をどうとらえるべきか?報道と政治的な意図から考える

年金制度を一部変更する法案が、平成28年11月に採決されました。変更点はいくつかあるのですが、特に、以下に挙げる2点が争点となっています。

年金法案の改正内容とは?

1.賃金に合わせて年金額を減額する

物価と賃金は必ずしも比例しません。現在では、物価と賃金が異なる動きをした場合、物価に合わせて年金額を決定されるようになっています。つまり、物価が上がって賃金は下がった場合には、年金額は据え置かれるということです。
新ルールではこの点が変更され、賃金を年金額の基準とすることにあります。このルールが、2021年度から施行されます。

2.「マクロ経済スライド」が強化される

「マクロ経済スライド」とは、賃金や物価が上昇した割合に対して、年金の増額を約1%抑制するというものです。現在では、このマクロ経済スライドは、物価上昇時にのみ適用されます。そのため、物価が下がっている状況では、年金額の伸びを抑えることができません。
そこで2018年度からは、デフレで実施できなかった分の抑制が翌年度以降に持ち越されるようになります。それによって、物価が上昇した際に、たまった分をまとめて差し引けるようにするという仕組みです。

なぜ年金制度を変える必要があるのか?

これまでの制度は、物価も賃金も等しく上昇し、それに伴って年金給付額も上昇するということを前提としています。しかし、低成長時代においては、物価が上がることはなかなかありません。
つまり、デフレによって物価や賃金が下がっても、それを年金支給額に反映させづらい状況になっているということです。そうなると年金給付額は高止まりし、将来にわたって年金制度を維持していくことが困難になってしまいます。

日本の年金制度は、現役世代が保険料を支払い、それを年金受給世代(高齢世代)が受け取るという仕組みになっています。これを「賦課方式」と呼びます。
この仕組みで年金制度を維持するとなると、世代間のバランスが非常に重要となります。しかし、今後少子高齢化が進んでいくと、どうしても受給側に対して支払い側が不足してきます。両者のバランスを調整することは不可欠になってきます。

先に挙げた年金制度改革法案は、年金給付額の高止まりを避けることを目指しています。それによって、年金財政が破綻することのないよう調整し、将来にわたって年金水準を保てるようにするという狙いがあります。

マスコミの報道における批判

この法案は、「年金カット法案」として批判にさらされました。
衆院厚生労働員会では「強行採決反対!」、「年金カット反対!」などと書かれたビラが掲げられ、大荒れになりました。その様子はテレビのニュースなどでも放映されています。
また、新聞では、朝日新聞が特に批判的な立場を取っています。以下に、その時の朝日新聞の記事を示します。

<年金抑制法案採決強行>
(平成28年11月26日付朝日新聞)
『公的年金の支給額を引き下げる新しいルールを盛り込んだ年金制度改革法案は25日の衆院厚生労働委員会で自民、公明、日本維新の会の賛成多数で可決された。民進、共産両党は審議継続を求めたが、与党が採決を強行した。(中略)蓮舫民進党代表は「首相の思うがままに立法府は動くと勘違いしている。政権のおごり、上から目線が非常に残念だ。乱暴な採決の是非を国民に問いたい。社会保障は常に争点だ。」と語った。』

この記事は、『今の自民党は数の力にまかせ、野党の背後にもいる多くの国民の存在を忘れているようだ。』という文で総括されています。

この記事から分かるように、朝日新聞での批判は、年金制度改革法案そのものというよりもむしろ、採決が強行されたことに対するものです。
ニュース映像もまた、反対を押し切って採決されたという点を映像によって批判していると言えるでしょう。

全国紙における肯定的な報道

朝日新聞では先に挙げたような否定的な論調で報道されている年金改革法案ですが、他の全国紙では、比較的肯定的に書かれています。以下に、毎日新聞と産経新聞の社説を掲げます。

<社説年金改革法案持続可能にする論議を>
(平成28年10月31日付毎日新聞)
『デフレで物価や賃金が下がったとき、それを年金に反映させなければ、給付額は高水準のままとなり、将来の財源が苦しくなる。長期的に年金を持続可能にすることを考えると、改革案は必要な措置ではある。』

<社説年金抑制法案若者世代にツケは回せぬ>
(平成28年11月7日付産経新聞)
『年代によっては不満もあろうが、子や孫世代の「老後」に対する配慮の必要性は理解されるはずだ。限られた財源を有効活用するには、すべての世代で「痛み」を我慢し合うしかない。』

 

このように、諸手を上げて賛成とまではいかないものの、「必要な措置」であることは認められています。

また、日本経済新聞では、世論調査(平成28年11月28日付)も行われています。

それによれば、今回の年金法案については、反対が57%、賛成は29%でした。特に、当時の内閣を支持しない層では、反対は73%に上ったとのことです。

一方で、年代別にみてみると、20代では6割超、30代では4割超が賛成を表明しています。現状年金を負担する側である若い世代にとっては、年金が高止まりすることは自分たちの負担増に直結します。そういった点から、法案に対する支持は高めになっているようです。

政治ではどのように扱われているのか?

毎日新聞の記事内では、政治におけるこの法案の立ち位置についても言及がなされています。以下がその部分です。

<年金法案採決与党迅速、批判封じ 野党は「強行」演出>

『野党が「強行採決」と印象づける「演出」にこだわったのは、早期の衆院解散を警戒しているためだ。民進党の蓮舫代表は25日、所属議員に「解散風はビュンビュン吹いている。台風だ」と漏らした。採決後は記者団に「あまりにも乱暴で立法府を軽視した採決の是非を問わせていただきたい」と次期衆院選で争点化する考えを示した』(毎日新聞同記事より)

採決が強行されたと印象付けるような報道が行われる背景には、内閣を批判したいという野党の意図があるようです。

年金は、誰にとっても大きく関わりのあることである一方、複雑で理解しづらい仕組みでもあります。そうした点から、政争の道具として利用されやすくなってしまっていると言えるでしょう。

どんな見方が必要なのか?

現在の年金制度には様々な問題点があり、何らかの改正は必要とされています。一方で、制度を改正することは年金の減額に繋がるため、受け入れ難く感じられる人が一定数いるというのも、事実でしょう。
しかしその対立には、政治とマスコミによっていたずらに強調されているという側面もあります。そしてその対立は、それ自体が年金制度を不安定にすることに繋がりかねません。なぜなら、日本の年金制度は世代間での支え合いを前提としているからです。
本来政治やマスコミこそが、冷静に対立を避けるよう努めなければならないはずです。しかし、現状ではそのようになっているとは言い難いでしょう。

ライフプランを考えるにあたっては、メディアによって強調される対立に惑わされないようにすることも大切です。「制度が破綻するかもしれない」という不安を感じたら、その不安がメディアによって煽られたものでないか、いったん振り返ってみるべきでしょう。
疑問に感じることがあればひとつずつ丁寧に解消していくなどして、制度の変更によってどういった影響が生じ得るか冷静に考えることが必要です。

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※当コンテンツに記載されている内容については、現在は終了している制度や古いニュースも含まれております。あくまでご参考いただくものでございますので、実際に住宅購入・ライフプランを検討される場合は、現在の情報をご自身で確認の上ご判断ください。