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エンゲル係数の上昇から分かることとは?

家計の消費支出において、食費が占める割合のことを「エンゲル係数」と言います。ドイツの社会統計学者であるエルンスト・エンゲルが1857年に論文で発表したもので、社会科の授業で習ったことがある、という人も多いかもしれません。
このエンゲル係数に関して、こんなニュースが出ています。

消費増税と円安で家計の苦しい人が増えている?

<エンゲル係数、21年ぶり高水準昨年度24.3%、家計のゆとり低下>

(2015年5月8日付日本経済新聞)

『家計の支出のうち、食料費が占める割合を指す「エンゲル係数」が上昇している。総務省によると、2014年度平均で24.3%に達し、1993年度以来、21年ぶりの高水準になった。各家庭が消費増税で支出全体を抑えるなか、円安などの影響で食料品価格が上昇したことが響いた。』

エンゲル係数は消費支出における食費の割合のことです。飲食費というのは生命維持のために節約することが難しい項目ですから、収入額が低くなればなればなるほど飲食費以外に回せるお金が少なくなりますので、家計における飲食費の割合が高くなります。つまりそれだけ生活水準が低いということを表しており、エンゲル係数が「どれだけ家計にゆとりがあるか」を示していると言われる所以です。

それに裕福な家庭であろうとそうでない家庭であろうと、購入する食材の価格はほとんど同じです。飲食費にかかる金額には、裕福な人も貧乏な人もそれほど大きな違いがでるわけではありません。そう考えると、家計に余裕がある人ほど消費する金額における飲食費の比率は低いのが当たり前ですし、一方で家計に余裕がない人は消費における飲食費の金額をそれほど減らすことができないので、飲食費以外に回せるお金が少なくなるのも当然と言えるでしょう。単純に言えば家計が苦しい人ほどエンゲル係数は高くなる、というわけです。

ニュースではこのエンゲル係数の値は、日本では2000年代からずっと23%台前半でキープされ続けていたのですが、2014年度になって急に24%を超えるような上がり方をしているようです。その原因としては消費税の増税と円安が考えられるとのこと。消費税の増税を行ったために消費者の節約志向が強まってしまい国民全体の消費意欲や消費支出そのものが落ち込んでしまった一方、食料品は円安や消費税の増税によって値上げされたからだというのがその理由です。

エンゲル係数の値は収入額によって変わる!

今回ご紹介したニュースの元となった「家計調査報告平成26年年度平均速報」(総務省統計局)を見てみると、「2人以上の世帯の消費支出額は14年度平均で28.8万円と、前年度よりも名目で2%減った。自動車や家電など耐久財への支出を減らす一方、節約しづらい食料品への支出は値上げもあって1%増の7万円になった。このため食料品への支出割合が高まった。」とあります。やはり、収入額の減少にともなって自動車や家電のような嗜好品への支出額も減少しているにもかかわらず、飲食費として支出する額はむしろ上がっていることがうかがえます。

そのほか、エンゲル係数が年収階層別にどれだけ異なるかを表したデータを確認すると、実際に毎年得られる収入額が高くなるにつれてエンゲル係数の値は低下していることがよく分かります。最も年収が低く、436万円に満たない第1階級の人のエンゲル係数は25.1%ですが、その次の階層である年収567万円以下の第2階級になるとエンゲル係数は23.7%と少し低下します。さらに最も年収の高い層で906万円以上の年収である第5階級の人のエンゲル係数は20.2%しかありません。毎年の収入額がどれだけであるかによって、エンゲル係数には5%前後の大きな差が出てくるのです。

消費支出にはどんなものが含まれるの?

それでは、エンゲル係数は一体どのようにして計算するのではしょうか。家計調査報告を参照しながら解説していきましょう。

まずエンゲル係数は、「消費支出のうちの何%を飲食費が占めているか」ということですから、

エンゲル係数(%)=食料費÷消費支出×100

が計算式となります。

重要な点はこの「食料費」と「消費支出」には一体どんなものが含まれ、どんなものが含まれないのかというところにあります。

「食料費」の中に含まれるものは、お米やパンといった主食のほか、魚や肉、野菜といった食材も含まれます。また調理に必要な調味料も食料費ですし、アルコール類や外食をした時の食事代も含まれます。

一方で「消費支出」の中には「衣・食・住」のすべてが含まれます。先ほど説明した「食料費」のほかにも、家賃や家の維持や修理にかかる費用、水道代や光熱費などは「住」の消費支出です。もちろん衣料費も含まれます。それ以外では、生活に欠かせない費用である交通費や通信費、医療費などが主なものとして挙げられるでしょう。もちろん生きていくために必須というわけではない娯楽費や交際費、お小遣いも消費支出の中に含まれます。

ただし社会保険料や税金はこの中には含まれません。また、貯蓄や生命保険料、住宅ローン返済も消費支出の中には含まれないので注意が必要です。

本当に家計の苦しい人が増えているの?

ニュースでは『食料品が値上がりしているので、家計にゆとりを感じる世帯が減っている。値上げに追い付くような賃金の動向があるかどうかがこの問題を解決する鍵だ』としていますが、本当にそうでしょうか?

実は、しっかりとデータを確認すると、家計が苦しくなっている理由は収入の増加が食料品などの値上げに追い付いていないからだ、とは言い切れないことが分かります。

例えば、家計の「黒字率」に注目してみましょう。黒字率とは家計のうちのどれだけを貯蓄に回しているか、ということを表した値です。家計調査報告によると、総世帯の中でも世帯主が働いている勤労者世帯では、この家計における黒字率が増加していることが分かります。

『勤労者世帯の黒字率は26.5%となり,0.2ポイントの上昇となった。黒字率の内訳をみると,金融資産純増は可処分所得の21.7%となり、1.4ポイントの上昇となった。また、財産純増は1.8%となり,0.6ポイントの上昇となった。』(家計調査報告)

「黒字」とは毎年の収入額から社会保険料や税金に支払った金額を引いた額である可処分所得から、衣食住などの様々な消費支出を差し引いた金額のことです。そしてその可処分所得に対して黒字の額を割った値が黒字率です。この黒字率が増加したということは、つまり多くの家庭で所得から消費に回らなかった金額、つまり貯蓄の方に回ってしまった金額が増加したということを表しているのです。

家計調査報告によると、金融資産額や財産額というのは可処分所得に対して増加していることが分かります。財産が増えているのだとしたら、それは「ゆとりのない」状態とは言えないでしょう。

そう考えると今回のニュースも、ただ単に消費税の増税が施行されために消費マインドがちょっと冷え込んでしまっただけかもしれないと言えるわけです。多くの人が節約志向になったために消費が減少してしまったということは、それだけ貯蓄しようという傾向が強まったということだと読み取ることもできるでしょう。

節約志向になりすぎるのは考えもの!

今回のニュースをちょっと見ただけの人は、つい「食料品の価格の上昇が原因で多くの人は家計にゆとりを失ってきているんだな。だったらもっと賃上げしないと暮らしは楽にならないだろう」とか、「食料品は削ることのできない生活必需品なのだから、消費税をかけないでほしい」といった感想を持つでしょう。

もちろん、年金などで収入が限られている高齢者の世帯にとっては、消費税が増税されたり食料品が値上がりしたことで家計が厳しくなっていることは事実でしょう。実際にデータを見てみても、高齢者で無職の世帯のエンゲル係数は25.6%となっており、国民全体の平均値を押し上げています。とは言え、高齢者の世代のエンゲル係数が高い傾向にある原因はそれだけではありません。そもそも高齢者世帯は子持ち世代と比較すると子どもへの支出や付き合いなどの交際費といった消費支出そのものが少ないため、結果的に収入における飲食費が占める割合が大きくなってしまう、という側面もあるからです。そう考えると、日本の中でのエンゲル係数が上がっているのには、高齢者の世帯が増えていることも大きな要因の一つと言えるのかもしれません。

どちらにせよ、消費増税や値上げがあったからといって必要以上に節約志向になってしまい、それで国全体の消費が落ち込んでしまっては景気回復の妨げになってしまいます。もちろん浪費を勧めるわけではありませんが、しっかりと消費と貯蓄のメリハリをつけて家計を設計することが大切だと言えるでしょう。

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※当コンテンツに記載されている内容については、現在は終了している制度や古いニュースも含まれております。あくまでご参考いただくものでございますので、実際に住宅購入・ライフプランを検討される場合は、現在の情報をご自身で確認の上ご判断ください。